所有者不明土地問題~とりあえず遺産分割協議書の作成から始めてみよう

持ち主不明の土地の総面積は九州以上!

最近よく新聞などで所有者不明土地問題の記事を目にします。民間の研究会のまとめによると、持ち主がわからない土地が全国で約410万ヘクタールもあり、総面積で九州を上回るほどもあるそうです。特に田舎では空家問題と同様に深刻な問題です。

 

参照:「全国の土地2割所有者不明 九州上回る410万ヘクタール」(産経ニュース)

 

不明の理由は不動産を相続しても登記をしないまま放置していることでしょう。

相続登記がないため現在の所有者が記されておらず、何代も前で止まっていたりすると調べても直ぐには判明しなかったり、相続人が多数だったり、連絡が取れなかったりするのです。

このような土地をめぐっては、例えば自治体による道路の建設や再開発、災害時復旧作業などに膨大な時間や費用を要することになり、計画の中止や変更を余儀なくされるケースもあります。

高齢化に伴い相続も増加しており、今後も所有者不明土地の増加は続くでしょう。

 

相続登記未了の土地が増える理由

ではなぜ相続で土地を承継しても相続登記をしないのでしょうか。

まず不動産の登記はそもそもが任意ですから、するもしないも自由です。登記しないからといって罰則があるわけでもありません。

さらに、地方では過疎化や地価の低下によって利用価値がなくなり土地を承継するメリットが感じられなくなっていることもあります。

そのわりに高額な登録免許税を支払ってまで相続登記など面倒だと思われるのも無理はないように思います。

もちろん、国や地方自治体も危機感をもっており様々な対策が検討されています。先日スタートした法定相続証明情報制度もそのひとつです。

ただ以前の記事でも書いたように相続登記推進の効果はあまり見込めないように思います。やはり、登記の義務化、罰則、登録免許税の減免など登記制度の見直しが検討されるべきでしょう。

参照:「法定相続情報証明制度が始まります 」

また、所有者不明のままでも、緊急性のある公共事業には利用できるような制度も検討されているようです。

 

とりあえず遺産分割協議書だけは作っておこう

既に不明になってるものについては国や自治体の政策に任せるとして、今後、所有者不明土地をこれ以上増やさないためにどうすればよいのか。

行政書士として相談者にいつも言うようにしていることがあります。

それは、

「登記はいつでもいいから遺産分割協議書だけはちゃんと作っておきましょう」

ということ。

相続登記推進が叫ばれる中で「登記はいつでもいい」なんていうと怒られそうですが、現状の制度で「登記してください」とだけ言っても、なかなか重い腰はあがらない、というのが私の日々の実感でもあります。

そんな中でも何とか所有者不明という事態にしないためには、相続があったらとりあえず遺産分割協議書だけでも作っておくこと。それを意識してもらうことが結構有効なのではないかと思います。

遺産分割協議書を作成するには、亡くなった方の財産を登記簿謄本などで確認し、戸籍を調べて相続人を明らかにしなければなりませんから、その時点までの土地の権利関係、相続関係を整理しておくことができます。

複数の相続人がいる場合に分割協議によって「この土地は相続人の一人が相続する」というように決めて相続関係をなるべくシンプルにしておけば、それ以降相続人の数がむやみに増えることや相続関係が複雑になることを防止できます。

遺産分割協議書を作成し、収集した登記簿謄本、戸籍謄本等をまとめて保管しておけば、相続後すぐには登記をせずに数年立った後であっても、その協議書を使って相続登記をすることは可能なのです。

公共事業に係る場合に登記名義が不明だとしても、相続情報が遺産分割協議書という形でまとまって保管されてさえいれば、自治体の調査も容易になり時間も費用も削減できると思います。

また、遺産分割協議書は不動産の登記にかぎらず、ほかの財産、たとえば銀行口座や自動車などの相続手続きにも利用できますし、紛争防止にもなります。

というわけで、土地を相続したけど、登記をするのは費用や手間のハードルが高いと言う方は、せめて遺産分割協議書だけでも作成しておいてはいかがでしょうか。